ガルシアの隠れ家 by grass-b |
朝坂道を降りて行くと自称猫屋敷のO婦人がぼんやりと家の前に佇んでいた。 彼女はいつもだと別荘地のノラ猫達に餌を与えに行ってる時間だ。 「あなたはどちらさまか分かりませんが一昨日主人が亡くなったんです」と言う。 昔ご主人と店にいらしたこともあるのだが私のことは覚えていないようだ。 後日ご焼香に伺う。 庭には丈の低いすももの木が四方八方に枝を広げて満開の白い花をつけていた。 入り口の手すりにもたれて、花の下にしゃがんでいるO婦人と猫の姿にしばし見とれる。 夢のような光景。 楽園という言葉が浮かぶ。 家の中はダイニングテーブルの下に電気マットが敷かれ猫達がてんこもりになって寝ていた。 猫の山。 「主人は私のことが好きで好きで」やつれは見えるが横顔が美しい。 新しくできた海辺の病院で亡くなったそうで臨終の言葉は「にしんはきてるか」 さばとらの猫が仏間に入ってくる。 あるかないかの両耳がかわいい。 「この子は冬に2週間家をあけて戻ってきたら耳が凍傷になってて、ある日ここにポロポロと耳の先っぽが落ちてたの」と、畳を指差す。 陽が傾いてきたのでおいとますることに。 言葉が追いかけてくる。 「主人は私のことが好きで好きで・・・あら、私さっきと同じことを言ってます?」 窓の外を埋め尽くすかのような白い花。 by 店主 ♀
by grass-b
| 2016-04-04 08:56
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